第82回 未来の貸借対照表をイメージするための最高の道具、資金別貸借対照表とは
中小企業の財務を把握するうえで非常に大切なのが貸借対照表です。
しかし、財務を良くするために貸借対照表をそのまま使おうとしても
難度が高いと思います。
そこで、私たちは未来の貸借対照表をイメージするために、
貸借対照表を組み替えて作った資金別貸借対照表を使っています。
今回は、資金別貸借対照表はどういうものなのかということを
概要だけではありますが説明させていただきます。
資金別貸借対照表とは
資金別貸借対照表は、通常の貸借対照表と損益計算書を組み替えて
作成したものです。
組み替えることによって、「キャッシュをどう集めて
いかに事業に投資・運用してきたのか」を
その特性ごとに4つの部に分けて表示しています。
4つの部とは
損益資金の部・固定資金の部・売上仕入資金の部・流動資金の部です。
また、損益資金、固定資金、売上仕入資金を合わせたものを
安定資金と言っています。
では、その4つの資金について説明をしたいと思います。
損益資金の部
損益資金とは、設立してから資金別貸借対照表の作成時までに
会社が稼いだ資金です。
過去の蓄積と、今期の稼ぎでこれだけのキャッシュがあるはずだ
ということを示したものです。
これは直感的に理解しやすいと思います。
しかし、「キャッシュがあるはずだ」と書かせていただいていますように
損益資金と実際のキャッシュは一致していないことが多いです。
おそらくみなさんの会社も一致していないでしょう。
それは、設立から今までに稼いだものが、他の資金の部に
吸い込まれているからです。
他の資金については、プラスであれば絶対良いとか
マイナスだと絶対に悪いなどとは言わないのですが、
この損益資金だけはどんなことがあっても増やすべき資金とされています。
固定資金とは
中小企業が事業をしていくうえで、棚卸資産を持ったり
設備投資をしたりすることが必要になってきます。
これらは、すぐに投下資金を回収することはなく
常時持っていて、少しづつ回収していく性質のものです。
だから、その資金についてもすぐに返す必要のある資金ではなく
安定的な資金で調達すべきだと考えらえます。
棚卸資産はすぐに販売して資金を回収して今うじゃないかと
思われるかもしれません。
しかし、商品が売れればすぐに仕入れて常に安定的に棚卸資産を持っているので、
やはり安定的な資金で調達すべきだと考えられます。
その安定的な資金調達とは、資本金や長期の借入金、役員借入金や社債などが
該当します。
そして、資金調達よりも資金運用が少なければ固定資金はマイナスになりますし
逆に、資金運用よりも資金調達が少なければ固定資金はプラスになります。
イメージしてみてください。
土地(5百万円)を持っている場合、仮に長期借入金が7百万円であれば
7百万円(資金調達)-5百万円(資金運用)=2百万円
ということで、固定資金は2百万円のプラスになります。
土地(5百万円)を持っていて、長期借入金が3百万円であれば
3百万円(資金調達)-5百万円(資金運用)=△2百万円
ということで、固定資金は2百万円のマイナスになります。
このように、固定資金の部では、在庫や設備等をきちんと資金調達しているか
どうかが分かります。
ちゃんと調達できていれば、この資金はプラスになりますし
調達していなければ資金は「固定資金の部」の資金運用に吸い込まれて消えてしまいます。
ただ、プラスが良くてマイナスが絶対的に悪いというものでもありません。
先の損益資金で賄えていればいいからです。
ただ、固定資金を改善しようとするのであれば、資金調達を増やすことよりも
資金運用を減らすにはどうすればいいかを考えるのかが優先です。
なにか削減できるものがないかを内容を詳しく見て検討しましょう。
固定資金のマイナスを損益資金だけで賄おうとすると事業拡大が必要となり
より多くの固定資金の運用額が必要になるかもしれません。
この点も注意です。
いかに増やさない努力をするか、これが中小企業には最も大事だと考えています。
売上仕入資金とは
3つ目の資金が、売上仕入資金です。
資金調達が、仕入債務(買掛金や支払手形)で、
資金運用が、売上債権(売掛金や受取手形)です。
前受金があれば、資金運用のマイナスとなり
前渡金があれば、資金調達のマイナスとしています。
運転資金に似ていますが、
運転資金は、【売上債権+棚卸資産△仕入債務】で計算しており
棚卸資産が入っています。
ここでは棚卸資産が入っていないので、売上仕入資金と言っています。
一般的にはマイナスになることが多いです。
ただし、これはその会社ごとの事業構造によるものである程度は仕方ありません。
大きく負けていれば何か改善の一手を打つべきです。
どうにもならなければ、他の資金で手当てをする必要があります。
安定資金
4つの資金についての説明の途中ですが、以上の3つの資金の現預金を
合わせた金額を安定資金と言います。
この資金がプラスになればなるほど資金は安定します。
ということは、最後の資金である流動資金で資金調達をするということは
会社の安定性には寄与しないということになります。
実際に会社が自由に使えるお金という感覚にも合っているのではないでしょうか。
良い会社の条件は、この安定資金がプラスであるということと
期を追うごとに増えていっているということです。
資金別貸借対照表を定期的に作って比べてみることをお勧めします。
流動資金とは
最後の資金が流動資金です。
今まで上げてきたもの以外の資産を、どのように調達してきたかを表しています。
資金調達としては、未払金や未払費用、預り金、法人税や消費税があります。
その他にも、短期の借入金や割引手形もここに含まれます。
仮に、自分の財布に1万円入っていたとします。
ところが、友人に先日の飲み会の費用3000円を立て替えてもらっている場合、
その3000円は友達から貸してもらっている(資金調達している)ことになり、
実際に自由に使えるお金は7000円になると思います。
この場合の、1万円が貸借対照表に載っている現金預金で
3000円が流動資金です。7000円が安定資金というと分かりやすいでしょうか。
ここでも、資金運用を増やさないよう気を付けることが大事です。
繰り返しになりますが、短期的な資金調達なので
ここでキャッシュを作っても、安定した資金とは言えません。
以上が、資金別貸借対照表の各資金の説明です。
項目は通常の貸借対照表と同じで、配置の仕方が違うだけですが
性質によって分けて比較することにより、より多くの情報が得られますし
本来の姿が見えやすくなります。
もちろん、私たちの提供する月次決算書にも含まれています。
財務を改善するには利益を出すだけではないことが分かりますので
ぜひ多くの中小企業の社長様には使っていただきたいと考えています。