第77回 現在の採用市場における中小企業がとるべき採用戦略・採用戦術
前回は、中小企業の人材確保がうまくいかない原因について
人材確保のためのノウハウ・手段
労働条件(労働時間、職場環境、休暇制度等)
賃金(基本給、賞与)
が関係しているというお話をさせていただきました。
もちろん、労働条件の改善や賃金の引上げは非常に大事なことなのですが
今回は人材確保のためのノウハウ・手段として、どのように採用戦略をとるべきなのか
について考えをお伝えしたいと思います。
現在の採用市場の状況
売り手市場、求職者有利と言われています
実際に有効求人倍率を確認すると、令和5年6月は全国の平均値が1.30となっています。
これは求職者1に対して、求人が1.30あるということです。
ちなみに有効求人倍率の計算の仕方ですが、
有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数
となっています。
※有効求人数とは
ハローワークの当月新規求人数+前月から繰り越された求人数の合計。
※有効求職者数とは
ハローワークの当月新規求職者数と、前月で就職が決まらなかった求職者数の合計。
ハローワークを経由していない求人と求職は含まれていませんが、
多くの企業がハローワークを利用していることを考えると、大いに参考になる数字だと思います。
求人数よりも求職者の数が少ないということは、企業間で行われる人材獲得の競争が
より激しくなっていることを意味しています。
他社も賃上げを行っているため、給与を上げれば採用できるわけではない
また、企業間で人材獲得競争が激しくなっているということで、
各企業はどのような方策を実施しているのでしょうか?
株式会社日本政策金融公庫総合研究所が2022年1~3月において、全国6,007社の中小企業を対象に
アンケート調査を実施しています。(有効回答2,880件、回収率47.9%)
出典:2023年版 中小企業白書
その結果、63.6%の企業が給与水準の引き上げを行っているとのことでした。
その他、長時間労働の是正(46.7%)、福利厚生の拡充(31.3%)などもあります。
どれくらいの引き上げ、是正なのかはこの調査では明らかにはされていませんが、
多くの中小企業が給与の引き上げ、長時間労働の是正などを実施しています。
ということは、多少これらを改善したところで採用がうまくいく保証はないのではないでしょうか。
というよりも、これらの施策は最低限必要なもの、なのかもしれません。
採用市場を踏まえてとるべき採用戦略
現在の採用戦略はどうされているでしょうか?
採用市場には、求職者とライバルしかいません。
営業活動と同じです。
ライバルと差別化できていないと採用なんてできない!と私たちは考えています。
基本的な採用条件を提示しただけで、あとは採用会社に任せきりなっていたり
明確に採用したい人物像を決めておらず、良い人がいたら採用したいと考えていたり
自社の特徴や魅力、同業他社との違いが明確になっておらず、
なんとなく社長の頭の中にあるだけになっていないでしょうか?
そもそも戦略とは、方向性、順番、差別化、選ばれる理由
などの言葉で表現されているもので、
目に見えるものではなく社長の頭の中だけにあるものです。
採用戦略にしても同様です。
社長の頭の中にしかない採用戦略は整理をして可視化することが重要です。
例えば、採用したい人物像、また自社に合う人物像の絞り込み。
他社と差別化できているのはどこなのか?
設定したペルソナから理想の人物像がどのような業界に多くいるか?
こういったことを可視化してみましょう。
ペルソナとは
マーケティング用語として使われる場合、商品やサービスを利用している典型的なユーザー像のことを意味します。
同じように、採用に関してどういった人物に入社してもらいたいかという求職者像のこととして使っています。
そして、おそらく採用活動は色々な人の力を借りて行っていくことでしょう。
実際に、前回説明した中小企業白書で明らかになっている人材獲得のための手段は
「紹介」が多いとのことでした。
自分ではない色々な人に力を借りるのであれば、
社長の頭の中にある見えないものを可視化します。
そして、その人たちと共有することが非常に大事だと考えています。
では、何を可視化して共有するかということで
以下の二つをしっかりと整理されてはいかがでしょうか。
わが社が求める人物像
ひとつめはわが社が求める人物像です。
・年齢
・前職は?
・どういった性格か
・考え方は?
・意欲、資質、経歴など
どういった人物を紹介すればいいかが、はっきりと分かるように。
例えば、
・25歳~35歳
・金融機関営業経験者
・明るい
・自分の考えを人に説明することができる
・人に喜ばれることが好き
・勉強が苦にならない
・挨拶がしっかりできる
全てを満たす人はいないかもしれませんが、会社として採用したい人物像を挙げてみてください。
それが明確になっていないと、紹介者は紹介したくてもできません。
同業他社との違いを比較表を使って説明する
ふたつめは、なぜ他社ではなくウチの会社に就職すべきなのか?ということです。
当社と一般的な会社では何がどう違うのか。
・どんな商品・サービスを扱っているのか
・将来、どうやって稼ぐのか
・研修制度はどうなっているのか
・会社の考え方はどうなのか
・ビジネスモデルは?
・お客様に対する姿勢は?
・財務体質がどうなっているのか
などです。他にも思いつくものをどんどん挙げてみてください。
求職者と話をする際に、「この会社に入りたい」「この会社で仕事をしてみたい」と
思ってもらえるような差別化ができているでしょうか。
できれば、一般的な会社との比較表の形式で分かりやすく伝えられるように
なっているといいと思います。
すぐに採用に取り入れられて効果が出やすい方法
以上のような取り組みはすぐにでも取り入れていただきたいと思っています。
しかし、早速というわけにはいかないという場合もあるでしょう。
そこで、これだけはすぐに取り入れてもらいたいことをお伝えします。
社長自らが当社の使命感、理念、事業の未来像を語る
ひとつめは、社長自らが当社の求職者に熱く語ることです。
面接で求職者の話を聞く機会はあると思いますが、聞くだけになっていないでしょうか?
会社の考え方を一番理解している会社トップである社長が
自ら熱く語ることで、求職者に正しく伝わるのです。
ウチの会社は何を大切にしているのか
どんな思いで経営をしているのか
そして、これからどんな事業をやっていくのか
これらが求職者に正しく伝わり、共感を得ることができれば
求人活動が少し有利になりそうではないですか?
会社の考え方が正しく求職者に伝わることによって、
ペルソナに当てはまる求職者に絞り込むことができるでしょう。
また、トップが熱く語るという他社との差別化も図れます。
こちらから求職者を「この人は使えるか?」と見定めているのと同時に、
求職者も「この会社は入っても大丈夫か?」とこちらを品定めしています。
当社はこんな会社なんだ、こうなりたいんだということを熱く語ってください。
経営計画書の重要性
もうひとつが経営計画書を作成しましょうということです。
経営計画書は社長の考えを社内に示すための道具です。
経営計画書を使って使命感、理念、事業の未来像を伝えるのです。
考えというあやふやなものは明文化して初めてはっきりと相手に伝わるものです。
だから、社長の考えを明文化して具体化することによって説得力を持たせるのです。
そして、求職者に安心感とワクワク感を感じてもらうことができればと思います。
繰り返しになりますが、
1.採用方針を明確にする
2.明確にした採用方針を、協力者と共有する
3.求職者に対して、会社の魅力を熱く語る
を意識する。採用条件のみを伝えるのでは採用できない。
今すぐに取り入れるのが難しければ
会社の使命感、理念、事業の未来像、社長の思い
などを社長自らが求職者に熱く語ることが採用活動における差別化になる。
私たち中小企業は、採用のノウハウがなかなか蓄積できないものです。
ですから、せめて今回説明したことはできるようにしておくことが
他社との差別化につながり、採用の一助になると考えています。
参考になればうれしいです。