第74回 こういうアドバイスは無視しよう 会計事務所5つのイケてないアドバイス
私たち会計事務所は、お客様の数字を毎月チェックしています。
お客様のお役に立ちたい!という思いがあるので、その数字をもとに
アドバイスをさせていただいていることと思います。
しかし、数字を表面的にしか見ず、的外れなアドバイスをしてしまうことがあるかもしれません。
そんな的外れのアドバイスを聞き入れてしまうと、会社を良くするどころか悪い方向に進んでしまいかねません。
そこで、今回は良くないダメアドバイスとその理由について説明させていただきたいと思います。
あまり気にしなくてもいいアドバイスはこの際無視してしまいましょう。
ダメアドバイスその1 売上高をもっと伸ばせませんか?
前期よりも売上高が下がってしまったとき、あるいは赤字が出てしまったときなど
短絡的についつい聞いてしまいます。
そもそも売上をもっと伸ばせるのであれば、最初から伸ばしているということではありますが
その前に私たちは社長に事業の未来像を共有させていただけているのでしょうか?
もしかしたら、社長は現在の商品ではなく、もっと付加価値の高いものを伸ばしていきたいと
考えているのかもしれません。
現在の商品は付加価値が低かったり、差別化できていなかったり、
時代の変化により必要とされなくなってきていると判断されていたとします。
そして、新たな高付加価値商品の売上を伸ばしている途中かもしれないのです。
その場合、現在の商品よりも新しい商品に注力することによって現在の商品は
売上を落とすので、会社全体の売上高が下がるというのは十分に考えられます。
それを読み取るためにも、月次決算書において売上高を「売上高」とだけ表現する
のではなく、社長の意図を汲み、商品別に分解して表示させることも必要ではないかと思います。
会計事務所は表面的な数字を見るだけではなく、社長様と未来像を共有し、
それに向かって進めているのか、を確認することが大事だと考えます。
中小企業の経営者様も売上高の多寡だけを見るのではなく、
事業構造を変えていくときは一時的に売上高が落としてしまうこともある
ということを知っておいていただきたいと思います。
ダメアドバイスその2 粗利益率を上げられませんか?
売上高から変動費を引いた残りを「粗利益」と呼んでいます。
そして、その粗利益が売上高に占める割合を「粗利益率」といいます。
売上高100円に対して変動費が60円、粗利益が40円だとすると
算式 40円÷100円=40%
ということで粗利益率は40%です。
粗利益率を45%に上げることができれば、同じ売上高100円だったとしても
粗利益額は45円になるので、私たち会計事務所は
「もっと粗利益率を上げられませんか?」と聞いてしまいます。
しかし、これも誤ったアドバイスだと思っています。
それは、会社にとって大切なのは粗利益率ではなく粗利益額だからです。
いくら粗利益率が高くても、粗利益額が固定費を下回っていれば赤字になります。
粗利益率が高いからと言って、それが優れたビジネスモデルであるとは限りません。
粗利益率が下がっていても、会社全体の粗利益額が増えていればいいことです。
また、主力商品とは別に外注品で粗利益を稼ぐというふうに
社長が事業構造を戦略的に再構築していこうとしている途中かもしれません。
新しい事業構造を構築しようとして、まず人件費や設備費などを準備して一時的に
粗利益や経常利益が減少するのもやむなしの場合もあります。
もちろん、そういうことはなく単純に値引が多かったり、仕入れ値のアップを
価格に転嫁できていないだけかもしれないので、内容をしっかり確認する必要があります。
粗利益率とは事業構造のことでもありますので、単純に数字を追っていくだけ
では大切なことを見逃してしまう可能性があるということです。
粗利益率は高ければ良くて、低ければ悪い、と思い込まないようにしてください。
ダメアドバイスその3 削減できる経費はありませんか?
会計事務所にとって一番楽なアドバイスではないでしょうか。
当然ですが、無駄な経費は使うべきではないですので、総勘定元帳を
見ながら社長様と打ち合わせをさせていただくことはあります。
しかし、物価高騰によって増加してしまったコストについては企業努力による削減に限度があります。
また、コストの中でも「未来費用」についても削減してしまっては
現在の損益は改善するかもしれませんが、将来にわたって会社を発展させていくことができなくなります。
コストのうち、未来費用については積極的に予算して使うべきです。
特に、高付加価値商品へシフトしていくのであれば未来費用は必須であるといえます。
それはコストではなく投資ではないでしょうか。
コロナ規制も緩和され、ある程度自由に動けるようになった今
営業活動のための戦略費、例えば旅費交通費や交際費、広告宣伝費などは
金額が大きくなったからといって、会計事務所がとがめるようなものではありません。
固定費は粗利益を稼ぐためのパワーです。
削減する努力も大切ですが、もっと粗利益を稼ぐにはどのような使い方ができるか
という発想をしたほうが前向きで発展的な態度だと思います。
ダメアドバイスその4 在庫を減らせませんか?
在庫が増えると手許資金が圧迫されてしまうだけでなく
保管スペースを多くとる必要があり、管理の手間や費用が余分にかかります。
また、ずっと在庫することによって商品が劣化したり、価値が低下することもあります。
そこで、その在庫が増えてしまった場合や、売上に対して金額が大きい場合は
在庫を減らせないか?というアドバイスをしてしまいます。
これも会計事務所にとって鉄板のアドバイスではないかと思います。
会計数字の上では、在庫は増えてはいけません。
しかし、意図的に増やさないといけないケースもあるのです。
例えば、物価が高騰していて今すぐ大量に購入したほうがいい場合、
市場に出回る量が少なくなってしまい入手困難になることが見込まれる場合には
数字の上では不利になったとしても在庫を増やすこともあるでしょう。
また、同じ材料や製品、商品を同じ数量で在庫していたとしても
単価がアップしていれば在庫は大きくなります。
あるいは、これから増やして行く売上の在庫が増えているのかもしれません。
「資金が寝るから在庫を増やすな」というのは会計的視点です。
経営的視点からも在庫を見ることも重要だと思います。
ダメアドバイスその5 運転資金を見直せませんか?
運転資金は
売上債権+棚卸資産-仕入債務
で表されます。
この運転資金は営業をしているうえで寝てしまっている資金なので
その金額が大きくなっていると、手元の資金を圧迫し資金繰りが苦しくなってしまいます。
その運転資金を毎月チェックしていると、昨年に比べて多額になってしまっており
それを見直すことができれば手元資金が増え、経営が楽になるかと思い
アドバイスするということです。
運転資金というものは、算式が示す通り、売上債権や在庫が大きくなったり
仕入債務が少なくなったりすると金額が大きくなります。
売上が増えれば売上債権や在庫は大きくなります。
(仕入債務も大きくなりますが、それ以上に大きくなることが多いです)
また、買掛金を減らし仕入れ先や外注先の資金繰り負担を軽くして
あげているのかもしれません。
運転資金の見直しも大切ですが、もっと大切なのは、増えている運転資金を
いかに賄うかをアドバイスすることです。
そして、すでに手を打っているのであれば不要なアドバイスです。
運転資金の増減「だけ」を見るのではなく、その対策についても
しっかり確認することです。
以上5つは数字だけを見ているダメなアドバイスですが、
中小企業の社長様におかれましても、もしこういった指摘をされた時には
注意していただきたいと思っています。
そして、数字のアドバイスをする会計事務所は、中小企業の社長様と未来像を共有することを
大切にしないといけないというお話です。