第51回 同じ損益でも財務状況によって賞与の判断は異なります~貸借対照表も確認しましょう~
損益計算書だけを見て賞与の判断をしていませんか?
以前、中小企業は利益計画を立てて、それを達成できたのであれば決算賞与を支給すべきということを提案させていただきました。
今回は、「決算賞与を社員さんにどれだけ支給できるかというのは、同じ損益でも財務状況によって判断は異なる」ということをお知らせしたいと思います。
賞与を支給するとき、多くの中小企業経営者は損益計算書だけを見てどれだけを支給すべきか、支給できるかということを考えているのではないでしょうか?
しかし、賞与の支給額は損益計算書だけを見て決めてはいけないのではないか、と私たちは考えています。
損益はもちろん大事です。しかし、損益計算書には当期の売上や経費が記載されているだけです。
それだけを根拠に賞与額を決めてしまって大丈夫なのでしょうか。
今回はそういうことをお話していきたいと思います。
キャッシュフローから支給額を考える
税引後利益+減価償却費=借入金の返済原資
という算式を見たことがありますでしょうか?
会社の借入金の返済は稼いだ利益でするのですが、減価償却費はお金の出ていかない経費です。
これも返済原資として考えましょうということです。
例えば、損益計算書が
売上高 100
経費 85(うち減価償却費5)
利益 15
という状態だったとします。
稼いだ利益は15ですが、減価償却費という経費は実際には払っているわけではないので
借入金の返済に充てることができるのは、利益15だけはなく、減価償却費5を加算して20ですよということです。
これを基に考えていきます。
どれだけ賞与を支給できるか?の基準のひとつとして
税引後利益+減価償却費が、年間の借入金返済額を上回ればいい、と考えることができます。
ただ、決算月に賞与を支給するので事業年度の途中に損益をある程度明らかにしておく必要があります。
そのためには毎月毎月月次決算書にて損益を把握し、決算月の損益を予測できるようにしておくべきです。
決算賞与を支給しない場合の損益予測をして、税引後利益(予測)の計算をします。
それに減価償却費を加算した金額が、借入金を返すための原資です。
年間返済額は返済予定表にて確認できると思いますので、まだ余力があるか?を判断することができると思います。
余力があれば、それが決算賞与として支給できる金額です、ということです。
これが、当期の(簡易的な)キャッシュフローがプラスになるように支給するための考え方です。
貸借対照表も確認していますか?
賞与を支給する場合、損益計算書だけではなく貸借対照表も確認しましょう。
同じ損益だったとしても、会社の財政状態によって支給できるかできないか、どれくらい支給すべきかという判断が変わってくるのが分かると思います。
自己資本比率が高く多額のキャッシュを持っている場合
もし、わが社に多額のキャッシュがあって自己資本比率も高ければ、それほど決算賞与の支給額について考える必要はないかもしれません。
多少現金を減らしたとしても問題ないからです。
会社のキャッシュよりも、社員さんの年間給与額を高めることを考えてはいかがでしょうか。
国税庁のデータや業界平均値などと比較しながら理想の年間給与額を決定し、少しずつ近づけていってはいかがでしょうか。
中小企業の社長が考える将来の会社の状況を作っていくため、決算賞与を未来費用としてとらえてみませんか?
会社の若返りをねらっていくのであれば、年収を上げていく必要があると思いますよ。
手元のキャッシュが少ない場合
もし、手元のキャッシュが少ないのであれば、決算賞与は見送った方がいいと思います。
最終的に利益が出ればいい、というのではなく、返済した後もキャッシュを確保できるのかが大事だからです。
税引後利益+減価償却費=借入金の返済原資
というのはあくまで目安です。実際の資金繰りはこのようにはいきません。
手元のキャッシュが少なければ、今後の手元資金のシミュレーションも大切です。
最低でも向こう6カ月ぐらいの資金繰予測表も作成してみましょう。
借入金の返済だけではなく、消費税の納税も多額になります。
余裕があると思ったら、納税のことを忘れていたということも考えられます。
また、債務超過の状態にある会社が今期は利益が出てギリギリ債務超過の状態を脱却できそうだという場合に、社員さんのことを思って決算賞与を支給したばかりに脱却できなかったということが起きてしまうかもしれません。
債務超過だと外部から見た場合の評価は大変低いのですが、評価の低い決算書で1年間融資のお願いをすることになってしまいます。
損益だけではなく、貸借対照表もしっかりと確認しましょうというのは、そういうことにも気を遣ってくださいということです。
決算賞与が支給できないときは
せっかく検討した決算賞与が支給できない場合、「支給できなかったね」で終わらせないようにしましょう。
来期に向けて「どうやったら支給できるか」をしっかり検討してほしいと思っています。
来期の利益計画を作成する
来期の利益計画を立てましょう。
年間返済額を賄えるだけの経常利益が確保できるか?
そのための売上高を確保できるか?
そのための具体策はありますか?
担当者別の販売計画、商品別販売計画、ABC分析など
来期の資金計画を作成する
当期の着地で貸借対照表がどうなうるのかをシミュレーションしてみましょう。
財政状態によっては融資を受けることができるかもしれません。
借入金の返済予定表を作成し、どの金融機関と交渉ができそうか検討します。
また、金融機関との交渉には作成した利益計画をもってあたりましょう。
今回のまとめ
決算賞与を支給する場合、損益計算書だけでなく、他にも見るべきものがあるということでした。
それは、損益計算書には表示されない借入金の返済であったり、キャッシュの残高や自己資本などです。
損益計算書では、一定期間の収支が記載されているにすぎませんし、それが必ずしもキャッシュの出入りを表しているわけでもないからです。
決してつぶれない会社を作るには貸借対照表もしっかり見ていただきたいという理由がここにあります。