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経営コラム

第94回 中小企業である自社はどれくらい賃上げを実行するのか?どれくらい賃上げができるのか?

2024.04.25 | 給与・賞与

要約

私たち中小企業は、どれくらい賃上げを実施すればいいのだろうか、

また、その賃上げを実行しても大丈夫なのかという不安があるのではないでしょうか。

 

その答えの例として

最低賃金という全国共通の数字を参考にする

・払えるかどうかはシミュレーションして確認する

・社員さんとコミュニケーションをとる

 

 

賃上げが中小企業にも波及している

先日、大企業の賃上げが実現し、それが中小企業へも波及する動きが期待できる

との報道がありました。

 

賃金と物価の好循環は「前進している」とのことです。

確かに、すべての企業でというわけではありませんが

多くの中小零細事業者の社長様が賃上げに前向きな姿勢を見せている印象があります。

 

 

どれくらい賃上げを検討しますか?

では、社員さんひとりあたりどれくらい賃上げを実施しますか?

 

報道では春闘賃上げ率が5.2%とか、

初任給の引き上げが10%を超える企業があるとか

なかなか凄い数字が発表されているようです。

 

ウチの会社もそれぐらい賃上げをしなくてはならないんだろうか・・・

お金は大丈夫だろうか・・・

賃上げが足りないといって辞めたりしないだろうか・・・

 

不安は尽きないですよね。

 

しかし、安心してください。

 

報道はあくまで報道です。

私たち中小企業の実態を正確に表しているわけではないはずです。

例えば、春闘賃上げというのは労働組合のある企業が対象になっています。

労働組合のない中小企業のデータは含まれていません。

 

また、個別の企業の賃金アップの報道についても

元々がとても低い水準だったのを一般的な水準に引き上げただけかもしれません。

 

さらに、基本給は上がっているかもしれませんが、

ひょっとしたら企業によっては賞与は下がっているかもしれません。

固定残業代という制度を廃止したのかもしれません。

 

報道されている数字が重要な意味合いを持つことは間違いないですが

これを何も考えずに自社に当てはめるのも危険ではないかと思います。

 

とはいえ、受け取る側の社員さんはそういった報道を目にしているはずですし

その賃上げ率よりも低い賃上げ率だとがっかりしてしまうかもしれません。

 

そういったことを踏まえて賃上げのことを考えないといけないわけです。

では、実際私たちはどれくらい賃上げができるか検討してみましょう。

 

 

最低賃金を参考にしてみる

令和5年度地域別最低賃金改定状況【厚生労働省】

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html

 

何か社員さんが納得できるような基準があればということですが

全国共通の数字である最低賃金を参考にしてはいかがでしょうか?

令和5年10月に全国の最低賃金が改定されました。

 

私たちの住む岡山県は892円だったのが、932円に40円アップしています。

約4.5%もアップしており、報道と大差のない数字となっています。

 

 

社員さんの給与を40円/時間アップしたら

仮に、年間労働時間が2,000時間だとします。

※この数字はタイムカードを集計するなど、実際の数字を使いましょう。

 

時給を40円アップさせると、年間では

40円×2,000時間=80,000円の給与アップです。

 

最低賃金で働いていた人にとっては4.5%の昇給でしたが

例えば、年収400万円の人からすれば2%の昇給です。

 

それから、会社全体を計算してみます。

社員さんが10人いるのであれば10倍すればいいですし

簡単に集計できるのであれば全員の労働時間の合計を使って

計算してもいいと思います。

 

全社員さんの労働時間がのべ30,000時間であれば

40円×30,000時間=1,200,000円

となります。

 

また、忘れてはいけないのが社会保険料です。

賃金アップがあれば、社会保険料の負担額もアップします。

だいたい人件費の15%として、給与に加算します。

 

人件費が1,200,000円アップするなら

社会保険は1,200,000円×15%=180,000円で

合計1,380,000円のアップです。

 

その金額を現在の人件費に加算して

今期の損益を計算してみましょう。

あるいは、来期の利益計画を作成してみましょう。

 

今回は、実績の数字をつかってのシミュレーションです。

 

 

未来会計図を使ってシミュレーションする

売上高 200,000千円

変動費 120,000千円

粗利益  80,000千円

固定費  78,000千円(うち人件費 40,000千円)

経常利益  2,000千円

もし、人件費を1,380千円アップさせた場合には

固定費が78,000千円から79,380千円

にアップします。

その結果、経常利益は

粗利益80,000千円-固定費79,380千円=620千円

になるな、と分かるわけです。

 

人件費以外の固定費もアップすることが見込まれるのであれば

数字的にはなかなか厳しいということが分かります。

 

シミュレーションの結果、赤字になるのであれば

どうにか黒字になる方法を考えていかなくてはなりません。

 

労働分配率を計算する

労働分配率とは、稼いだ粗利益のうち、

いくらを人件費に使ったか(分配したか)という指標です。

 

 

当期の実績は

人件費40,000千円÷粗利益80,000千円=50%

でした。

 

それが、賃上げをすることによって

人件費41,380千円÷80,000千円=51.725%

と2%弱悪化することが分かります。

 

 

最後に

人件費をどれだけ上げるかというのに正解はありません。

上げれば上げるほど社員さんは喜ぶでしょう。

 

かといって、無限に上げ続けることはできないですよね。

 

一方、社員さんは各種報道を見聞きしているので、

賃上げの金額が小さいとがっかりするかもしれません。

 

最悪、辞めていくかもしれないです。

 

そこで、客観的な数字を使って

ウチの賃上げはそんなに悪くないんだよ、ということを

社員さんに説明できれば、ある程度は納得してもらえるのではないでしょうか。

 

今回は最低賃金の増加額を使いましたが、

増加割合である4.5%を使ってもいいですし、

物価上昇率を使ってもいいかもしれません。

他にもいろいろ基準はあるはずです。

 

社員さんは「低い、少ない」と思う前に(「前に」というのが重要)

どういう考えで、どういう基準でこの賃上げなんだ

ということを説明されてはいかがでしょうか。