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経営コラム

第63回 社員さんの給与をアップした場合に、損益に与える影響をシミュレーションしてみます

2023.04.05 | 給与・賞与

 

2023年4月現在において、円安・物価高という外部環境の大きな変化があり、対応を迫られています。

それは、原材料費や経費の価格上昇への対応であり、人件費の上昇圧力への対応です。

 

私たち中小企業も当然それらに対応する必要がありますが、今回は賃金アップについて

・賃金アップが損益に与える影響をどう計算するのか。

・価格改定によって損益を維持しようと思ったら何パーセント値上げすればいいのか。

について簡単に検討したいと思います。

 

社員さんひとりあたり月1万円の昇給をすると、損益はどう変わるのか、を計算したことはありますか?

これはとても簡単に計算できます。

給与の金額を変えても売上高や粗利益率、その他の固定費は変わらないからです。

単純に人件費の増加分を計算すればいいだけです。

 

簡単ではありますが、どれくらいの影響があるのかを実際に計算してみることは意義があると思います。

その金額を計算して「これくらいなら大丈夫だな」と感じるようならぜひ賃上げをしてみてください。

 

例えば、社員さんが10人いたとします。

そして、毎月の給与を全員1万円アップするということで計算してみます。

 

1年間の給与増額 1万円×12か月×10名=1,200,000円

社会保険料 1,200,000円×15%=180,000円

合計 1,380,000円 ・・・固定費が約1.4百万円増加する。

 

このように社会保険料も計算に入れておいてください。

社会保険料や労働保険の料率をそんなに厳密に計算する必要はないと思います。

介護保険が含まれれば16%ぐらいになるでしょうし、含まれなければ14%ぐらいになるでしょう。

 

そして

・売上高と粗利益率を維持するとしたら、粗利益額は従来のまま

人件費は1.4百万円増加する

その他経費は従来のまま

 

ということであれば人件費の増加分だけ経常利益が減少することとなります。

 

 

ひとり1万円の昇給をしつつ、経常利益を維持するための値上は?

社員さんの給与を上げるということはとても大切なことではあります。

しかし、人件費という経費がアップするのであれば、

 

①その他の固定費を削減する

②変動費を下げる

③もっと販売数量を増やす

④値上げをする

 

ということをしなければ、上げた給与の分だけ利益が減少することになります。

ひょっとしたら赤字になってしまうことだってあり得ます。

 

どこに手を打つべきか?ということですが

今回は、物価が高くなっているので、値上げをするということで話を進めていきます。

 

【計算例】

前期よりも人件費が1.4百万円増加することは先ほどシミュレーションしました。

粗利益が前期のままだとその人件費のアップ分が減益になる、ということでした。

 

経常利益を、前期のまま維持しようとするのであれば、1.4百万円の値上が必要です。

(前提条件として、値上げはするが販売数量は減らさないこと)

 

現在の売上高が仮に100百万円(1億円)だとすると、1.4百万円÷100百万円=1.4%

ということで、現在の販売価格をすべて1.4%値上げすることができれば人件費を増やしつつ利益を維持できることになります。

 

価格交渉は可能でしょうか?お客様に受け入れていただけそうでしょうか?

%だけで考えるのではなく、実際に自社の価格に置き換えて考えてみてください。

 

1,000円で売っているものは1,014円ですし、

50,000円で売っているものは50,700円になります。

1,500,000円で売っているものは1,521,000円です。

 

 

原価が5%上昇するといくら値上げが必要か?

一番初めに申し上げた通り、増えるのは人件費だけではありません。

その他の固定費や、変動費もアップします。

ただ、計算についてはほとんど同じです。

 

追加条件1・・・人件費以外の固定費は1.6百万円増加する。

・固定費は合計3百万円増加する(うち人件費1.4百万円)こととなります。

 

追加条件2・・・売上原価が5%高騰する。

・売上原価が50百万円だったとしたら2.5百万円増加します。

 

売上が当期と同じだとしたら、人件費1.4百万円、その他固定費1.6百万円

売上原価2.5百万円で、合計5.5百万円経費が増加し、その分利益が減ることとなります。

 

ということで、経常利益を維持しようと思ったら、5.5百万円の値上が必要となります。

5.5百万円÷100百万円=5.5%

(これも、販売数量を維持するという前提条件で計算しています)

 

1個10,000円のものであれば10,550円ぐらいにしなくてはならないということです。

 

 

社会保険料というコストから見た昇給するタイミング

これなら頑張れそうだ!ということで、さっそく昇給をしてあげたいということですがちょっと待ってください。

社会保険料の計算の仕方をご存知でしょうか?

 

実は、4月から6月の3カ月間の給与によって、1年間の社会保険料が決まるのです。

 

4月から6月は残業をするな、と聞いたことはありませんか?

その3カ月の給与で1年間の社会保険料が決まってしまうので、なるべくその3カ月は給与を少なくしようということです。

 

仮に年間の給与の合計額が同じでも、給与の払い方によって社会保険料の金額が変わってくるということです。

ですから、昇給は4月にするよりは7月以降が都合がいいと言えます。

 

とはいえ、昇給が遅くなれば社員さんたちの年間給与総額が少なくなるもの事実です。

昇給が遅れた分を賞与で調整する必要があるかもしれません。

いずれにしても、社員さんにはしっかりと説明をしないといけないですね。