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経営コラム

第69回 利益が出ているのにお金がない!?入金条件は資金に影響を与えています

2023.06.05 | 資金繰り

今日は年に一度の決算報告。

 

税理士さんから渡される決算書。

そこにはたくさんの数字が書かれていて、何が何やら分からない。

 

「今年も利益がたくさん出ていますよ」と言われ悪い気はしない。

何枚もの税金の納付書が手渡され、納付期日が伝えられる。

 

しかし、利益が出ているのであればもっと手元に現金があるはず。

「計算違いじゃないのか」と思うが、そうではないと言う。

 

 

では、私の稼いだ利益はどこに消えたのか?

 

 

・・・

 

 

今回は、利益とお金は一致しないですよということをお伝えするために

想像上の会社であるA社とB社の入出金について説明をしたいと思います。

 

中小企業の経営者は、損益の管理だけでなく、資金の管理も関心を持つことが

大切だと思っていただければ嬉しいです。

 

 

前提条件

まずはこのシミュレーションをするにあたっての前提条件をお伝えします。

その前提とは損益について入金条件と支払い条件についてその他について、の3つです。

 

1.損益について

①いずれの会社も1カ月に粗利益1,000円を稼いでいる。

②いずれの会社も1カ月の固定費は900円かかっている。

③いずれの会社も経常利益は100円となる。

 

ここまでは2社とも同じということですが

 

④A社は卸売業粗利益率が10%・・・売上高は10,000円

⑤B社は飲食店粗利益率は66.66%・・・売上高が1,500円

この2社は業種が異なっており、経常利益損益分岐点比率こそ同じですが、売上規模が全く違っています

 

2.売上代金の入金条件と仕入代金・固定費の支払い条件

A社は売上について、月末で締め翌月に請求書を発行し、その月の月末に入金される

B社は売上について、その場で代金を受け取る

 

B社は飲食店ですが、クレカ払い・QR決済はできません。現金のみです。

 

⑧仕入については、A社もB社も月末で締めて翌月に請求書が送付され、その月の月末に支払う

⑨固定費は便宜上、A社もB社も毎月末にまとめて支払う

 

仕入代金と固定費の支払いは、A社もB社も同じ条件です。

 

3.在庫その他の項目について

⑩計算が煩雑になるので今回は在庫は考慮しない

⑪借入金の返済などもない。

⑫いずれの会社も、はじめに1,000円を持っている

 

この前提で3カ月後の資金を計算してみます。

 

利益が同じなので同じになるでしょうか?

それとも、売上規模が違うのでそれが影響するのでしょうか?

どちらの企業にお金が多く残っていると思いますか?イメージしてみてください。

 

 

A社の場合

A社は卸売業を営んでいます。

A社の損益と資金の動きを1カ月ごとに見ていきます。

 

①A社の1カ月目

売上高 10,000

変動費  9,000

粗利益  1,000

固定費    900

経常利益   100

前提条件でもお伝えした通り、利益は100円です。

利益が100円なら現金も100円増えるのでしょうか?

 

では、実際の現金の動きについて説明します。

 

売上代金10,000円は翌月請求するので、今月中にはお金は入ってきていません

仕入代金(変動費)9,000円も翌月に請求書が送付されて支払うので、今月中には支払いはされません

固定費900円は月末に支払います

 

以上のことから、1カ月目の現金については、入金なし支払い900円となります。

始めに持っていた1,000円は100円となりました。利益が出ているのにお金は減っていますね。

 

A社の2カ月目

売上高 10,000

変動費  9,000

粗利益  1,000

固定費    900

経常利益   100

 

2カ月目も利益は100円出ています。

 

では、現金の動きについて説明します。

 

売上代金ですが、1カ月目の10,000円が入金されました。

2カ月目の10,000円は3カ月目に入金があります。)

仕入代金についても、1カ月目の9,000円を支払います。

2カ月目の9,000円は3カ月目に支払います。)

 

そして、1カ月目と同様に固定費900円を月末に支払います

 

以上のことから入金は10,000円で、支払は9,900円となり、差し引き100円お金が増えます

2カ月目の月初に100円持っていたのが200円になりました。

 

 

100円増えます、とさらっと言っていますが、月初に持っているお金は100円しかありません。

売上代金の入金前に固定費・仕入代金を支払うことはできません。

 

本当にギリギリです。

固定費を月末にまとめて払うなんてことは実際にはないのでアウトと言ってもいいかもしれません。

 

 

A社の3カ月目

売上高 10,000

変動費  9,000

粗利益  1,000

固定費    900

経常利益   100

3カ月目も2カ月前と同じになります。利益は100円出ています。

 

実際の現金の動きも2カ月目と同じです。

2カ月目の売上代金の入金10,000円があります。

2カ月目の仕入代金の支払い9,000円があります。

 

固定費900円を支払いますので、100円お金が増えます。

現金残高は300円となりました。

 

ここでもまだ、売上代金の入金前には仕入代金の支払いができません。

お金が増えるタイミングが利益が出たタイミングよりも1カ月遅いうえに、

資金的にもカツカツとなっています。

 

 

B社の場合

今度は飲食業を営むB社の損益と資金の動きを見ていきます。

 

①B社の1カ月目

売上高 1,500円

変動費   500円

粗利益額1,000円

固定費   900円

経常利益  100円

B社も利益は100円です。

 

では、お金の入出金はどうでしょうか?

まず、売上代金1,500円はお客様が退店するときに払っていただけます。

仕入代金500円ですが、月末で締めて翌月に請求書が送られてくるので、1カ月目に払うことはありません

固定費900円はA社と同様支払います。

 

以上のことから1カ月目は、入金が1,500円、支払いが900円で現金残高は1,600円となります。

利益は100円ですがお金は600円も増えました

 

②B社の2カ月目

売上高 1,500円

変動費   500円

粗利益額1,000円

固定費   900円

経常利益  100円

2カ月目も損益は100円のプラスとなっています。

 

では資金はどうでしょうか?

売上代金1,500円はすぐに入金がされます。

今月の仕入代金500円は翌月払うことになっていますので払いません。

ただ、前月の仕入代金500円は今月支払うことになっています。

 

固定費900円は当然支払います。

 

入金が1,500円で、支払いが1,400円となります。

100円増えて1,700円になりますね。

 

また、A社と違って月初の現金残高は1,600円に対して支払総額は1,400円なので

売上代金の入金の前に支払うことができているのです。

 

③B社の3カ月目

売上高 1,500円

変動費   500円

粗利益額1,000円

固定費   900円

経常利益  100円

3カ月目も損益は100円のプラスとなっています。

 

資金を確認します。

売上代金1,500円はすぐに入金がされます。

今月の仕入代金500円は翌月払い、前月の仕入代金500円は今月支払います。

入金が1,500円で、支払いは固定費900円を含めて1,400円となります。

 

3カ月目も100円増えて現金残高は1,800円となりました。

 

なぜこんなことが起きるのか?

A社もB社も売上規模こそ違うもののいずれも100円の利益を毎月稼いでいます。

 

ところが、3カ月後の現金残高

A社 300円(△700円)

B社 1,800円(+800円)

その差は1,500円です。

 

毎月の仕入代金がA社は9,000円でB社が500円だからでしょうか?

 

実は、こんなに差が出てしまうのは入金条件の違いです。

A社は売上代金を売り上げた月の翌月にならないと入金されないのに対し、

B社は売上代金をその日に受け取ることができるからです。

 

もし、B社もクレカ払いを導入して、売上の全額が翌月に入金されることになったら

A社と全く同じ現金残高となってしまいます。

 

「いやいや。いずれ入金されるから少し待てばいいんだよ」

と思われる方はいないでしょうか?

 

その考え方もちょっと間違えていて、未回収の売上代金のことを売掛金というのですが

売掛金は翌月になったら回収される、のではなく事業をやめるまで永遠に回収できない

というのが正しい理解だと思っています。

 

売掛金は回収したと思ったら、次の売上代金が売掛金として計上されていくからです。

実際にこの2社のシミュレーションを続けても、永遠に差額がなくなることはありません。

 

 

今回お伝えしたいこと

以上のことから、飲食店の方が一般の卸売業よりも優れた業種ですよ、とか

クレカ払いやQR決済は導入しないほうがいいですよ、などというつもりは一切ありません。

 

多くの事業は売上即入金とはなっておらず、売上代金の入金がないと仕入代金の支払いができないような状況になりやすくなっています。

 

今回は翌月に売上代金の入金があるものとして計算しましたが、実際には入金に2か月以上かけるお客様がいることもあります。

そうなってくるとますます資金が不足しがちになります。

 

特に、売上高をアップさせる計画を立てている経営者様には注意していただきたいことがあります。

売上がアップすれば、代金決済条件によっては必要となる運転資金も大きくなり、手元資金を圧迫します。

 

今回は割愛しましたが、在庫も資金繰りを圧迫します。

売上高が増えれば在庫も増えるはずです。

増えた在庫はさらに資金繰りを圧迫するのです。

 

ですから、これから販売数量を増やして売上高アップの戦略をとろうとするのであれば

増加する利益のことだけではなく、増加する運転資金のこともシミュレーションをしてください。

 

現状の現預金残高で足りているのかどうか、足りないのであればいくら足りないかを知ってください。

後になってお金がなくてびっくりする、ということが少なくなると思います。

 

 

それから、これは飲食店経営者様にお伝えしたいことですが、現金商売の場合

稼いだ利益よりも多くのお金が手元に残っていることがあります。

 

数字に弱い、または数字を見ていない経営者は

ものすごく儲かっている!

勘違いして、生活が派手になったり不要な経費を使ってしまうことがあるそうです。

 

そのお金は利益ではなく支払いを待ってもらっているだけなので大事に手元に置いておくことが必要です。

決して無駄遣いに充てないようにしてください。

 

 

私たちが毎月提供する月次決算書には、資金別貸借対照表が含まれています。

資金別貸借対照表を見れば、手元の資金はどのようにして調達しているのかがはっきりと分かるようになっています。

そのような資料で常に自社の資金繰りをチェックすることが大事ではないかと思います。