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第53回 いくら未来費用を使っていいのか?根拠を持って未来費用を予算化しましょう
2022.12.22 | 経営計画
商品には自信があるが高値で取引できない中小企業
商品や技術には自信があるが、高値で販売できていないという中小企業は数多くあります。
それはその事業が、大企業一社への卸売のため価格交渉ができないなどの理由だと思います。
下請け体質とか依存体質ともいわれています。
価格交渉をしようものなら、
「他にも同じ条件で取引先ならいくらでもあるよ」とでも言われてしまうかも・・・
大企業と取引をしたいという会社は本当にたくさんあるので、
大企業からすればわが社と取引できなくても構わないというわけです。
一方、一社依存で売上を立てているわが社が大企業からの発注量を減らされてしまうと、
そっくりそのままの割合で会社全体の売上が減少してしまいます。
発注量が10%減らされてしまうと、わが社全体の売上も10%減少してしまいます。
最近は価格の上昇圧力があるため価格交渉しやすいとはいえ、
難しい会社にとってはまだまだ厳しいかもしれません。
値決めは経営である、とよく言われますが、価格の決定権を持っていない会社の業績は不安定です。
未来費用をかけて高値で販売していくという選択肢を
それが不満であれば、高値で販売できる取引先を探す必要があるわけですが、
そんなことがすぐにできるのであれば最初から困っていないというわけです。
そこで今回は「未来費用をかけて高値で販売できるお客様を探しましょう」という提案をさせていただきます。
それにあたって3つのことを考えておく必要があります。
1.未来費用をどれくらい使ってもいいのか?
2.値上げをするとわが社の収益状況はどのように改善するか?
3.どのような未来費用を使っていくのか?
これが正解だ、というものを示すことは難しいですが、何かの参考になればと思います。
今回は1と2についてお伝えをしていきますが
いずれも決算書や試算表を使って計算しています。
(とくに月次決算書であれば分かりやすいと思います)
どの書類のどこにその数字が記載されているのかが瞬時に分かるようにしましょう。
未来費用をどれくらい使ってもいいのか?
すぐに高値で販売できる取引先を探すのは難しいのであれば、中期的にお金をかけて探すことを考えます。
その際に考えなければならないのが、どれくらい使っていいの?という金額です。
むやみやたらと使うのは業績をさらに悪化させてしまいかねません。
ごく少額しか使わないのであれば効果が期待できないかもしれません。
ここでは、考え方を3つお伝えしようと思います。
いずれも簡単に計算できるので、自社の状況にあった考え方を取り入れてみてください。
実質無借金の観点から計算する
ひとつめは実質無借金の観点です。
実質無借金という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
簡単にいうと、借入金よりも手元資金の方が多く、返そうと思えば返せる状態のことを指しています。
ただ、実際に返してしまうと手許資金が薄くなってしまって不安定になるので返さないことが多いです。
もし、現在実質無借金の状態であれば資金は潤沢にあるということです。
未来費用を使って、多少損益が悪化したとしても実質無借金を維持できるのであれば問題ないという考え方です。
最大○円まで使える、と簡単に計算できますね。
キャッシュ比率の観点から計算する
ふたつ目は資金残高の観点です。
私たちは、中小企業が安心して経営をしていくうえで持つべき資金の目安として、総資産の30%ぐらいとお伝えしています。
中小企業にとってこの水準は大変かもしれません。
もし、この割合を超えているのであれば、資金は潤沢にあると言えます。
そこで、この割合が30%になるまでは資金を未来費用として使うことができるのではないか、と考えることができます。
総資産は結構増減するので、厳密に計算するのは難しいです。
現在の総資産の30%を持つべき資金の目安として計算し、
現在の実際の資金の残高から引き算すればおおよその金額が算定できます。
年間返済額と利益の観点から計算する
最後のみっつめは、キャッシュフローからの観点です。
簡易的な借入金の返済原資は
税引後利益+減価償却費
で計算されます。
この算式で計算した借入金の返済原資が
実際の借入金の返済額を上回るのであれば、その上回る金額がその事業年度に
使うことができる未来費用だといえます。
先の2つの基準だと、相当会社の財政状態が相当良くないと未来費用をかけることができません。
資金に余裕があるわけではない中小企業はこの基準で計算して
資金を減らさないためにはどれくらいまで使っていいかを検討してみましょう。
値上の効果は?粗利益率と経常利益に与える影響
未来費用を使った販路開拓がうまくいき、現在よりも高値で販売をすることができたとします。
それが利益にどれくらいの影響を与えるのかを計算してみましょう。
値上前の決算書の数字
売上高 10,000
変動費 3,000
粗利益 7,000(70%)
固定費 6,500
経常利益 500
本来であれば、価格が上がれば販売数量は少なくなるでしょうが
計算を簡単にするために、以前の販売数量を維持できるものとして計算します。
現在よりも5%高く売れるとすると・・・?
売上高については、10,000×5%=500
ということで、500増加します。10,500になります。
変動費は増加しません。3,000のままです。
変動費は、売上高ではなく販売数量に比例して変動するからです。
粗利益は、10,500-3,000=7,500
増加した売上高から、増加していない変動費を引いた金額です。
粗利益率は7,500÷10,500≒71.4%となります。
固定費も増加しないとすると(実際は増加します。未来費用もかかっています。)
経常利益は7,500-6,500=1,000
こんな感じで値上げが利益にどう影響するのかが簡単に計算できます。
実際には、販売数量は減えるかもしれませんし、固定費も増加するでしょう。
ただ、この簡単なシミュレーションが新しい未来を描くためのたたき台となるでしょうし、
こんなに良くなるならやってみようか!という気になりませんか?
今回のまとめ
高値で販売するためのひとつの方法として販路開拓が考えられる。
そのためには、未来費用を使うことを考えてみる。
未来費用の予算としては
・実質無借金という観点
・理想的な資金残高という観点
・有利子負債の年間返済額を返せるか?という観点
などを基準にしてみる。
値上ができれば大きく損益が改善する。